るびりんブログ

鼻に風の当たる場所でなければ、頭がぼんやりしてしまって考えることができない。

千葉県から、およそ7500年前に作られた舟が出土している。いわゆる縄文時代の人々は舟で神津島まで渡って黒曜石を採取したり、津軽海峡を渡って豚を運んだりしていたらしい。縄文時代の人々は舟を知らなかったと思い込んでいると、この事実に驚かされる。



舟を利用し始めたのは、農耕を開始した時期よりも後なのだろうか。それとも先なのだろうか。水産資源の利用が定住を招き、定住が農耕の開始につながったとすれば、農耕の開始以前だったのかもしれない。その時期は1万数千年前ということになる。


いずれにしても人が舟を使い始めたのは、人類史やホモサピエンス史全体から見ればそんなに古いことではない。


犬ぞりが有名なイヌイットだが、カヤックやウミヤックと呼ばれるカヌーも輸送手段としている(モンゴロイド系の人々と帆船)。


南米最南端のフエゴ諸島に住んでいた人々も舟を作っていた(ヤマナの樹皮舟の模型)。


アリューシャン列島に暮らす先住民アリュートたちもシーカヤックを作って海獣などを捕っていた(北方史の海原に浮かぶバイダルカ。|特集|北海道マガジン「カイ」)。


アイヌ人たちもイタオマチプと呼ばれる舟を活用していた(地域ごとの特徴 | カヌー初心者さんの入門サイト:このページには、即席舟等面白い記述があります)。


舟は寒い海でも活躍していたのだ。



一方、温かい海と舟といえば、ポリネシア人たちのことが思い浮かぶ。ポリネシア人の故地は台湾であったらしい。そこからフィリピンへと渡り、太平洋の島々へと広がっていった。ポリネシアは、豚を飼い、イモを育てることを知っていた人々が舟という新しい技術を得て獲得された場所であり、決して未開の楽園ではなかったのだ。




歩くことしか知らなかった子どもが自転車に乗れるようになったとたんに行動圏の広がりにびっくりするように、舟を使って水上を移動することで人は随分と行動範囲を拡大できるようになった。


大きな舟を作ることができるようになれば、荷物を多く運ぶことも可能になった。

舟の機動力や輸送力は、騎馬民族の馬と並んで、恐怖をもたらすものでもあった。


モーリシャス島のドードー、フォークランド諸島のフォークランドオオカミなど、人類が舟を得ることで絶滅した動物たちもいる。


アフリカからカリブやアメリカ大陸に奴隷を運んだのも船であった。


輸出入を合わせた日本の貿易量は、年間9億トン以上。この内99.7%を船、残りを航空機が運んでおり、私たちの生活は船なしには成り立たない生活でもある(日本船主協会:海運資料室:海と船のQ&A)。


自動車が私たちの生活を大きく変えてしまったことはよく知っていたが、こうして調べて見ると舟もまた私たちの生活に欠かせないものであった。


人が能力を発揮すれば道具は進歩していく。それが規模の拡大を招くとすれば、幸せにはつながっていないと私は思う。